オニテンの読書会

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『家畜人ヤプー』は作品も面白いが、《作者》にまつわる事件も面白い!

 みなさんは、『家畜人ヤプー』という作品をご存知でしょうか?

 わたしとしては、娘に読ませたくない作品ナンバーワンレベルの作品だと思っています。初めて読んだ時は、「なんじゃこりゃ!」と思ったのですが、マゾヒスト作品として作られたものと知ると、「なるほど、こういう見方もあるのか」と納得できたことを思い出します。

 今回の記事では、奇作『家畜人ヤプー』を生み出した《作家》についてまとめて見たいと思います。

【目次】

 

 

『家畜人ヤプー』とは?

家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)

家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)

 

 あらすじ

ある夏の午後、ドイツに留学中の瀬部麟一郎と恋人クララの前に突如、奇妙な円盤艇が現れた。中にはポーリーンと名乗る美しき白人女性が一人。二千年後の世界から来たという彼女が語る未来では、日本人が「ヤプー」と呼ばれ、白人の家畜にされているというのだが…。

 
 この作品は、未来が舞台なのですが、その世界では、日本人は「ヤプー」と言われ、強烈な白人(神)信仰をもち、人体改造をされたり、食用の家畜になったりと、とんでもない扱いを受けています。そして、日本神話さえも、未来人たちによって作られたものであるという驚愕の真実が描かれることになるのです。
 この作品は、石ノ森章太郎さんも漫画化しております。
家畜人ヤプー(1) 宇宙帝国への招待編 (石ノ森章太郎デジタル大全)

家畜人ヤプー(1) 宇宙帝国への招待編 (石ノ森章太郎デジタル大全)

 

 漫画版は、こんな雰囲気です。

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この場面は、椅子用のヤプーになっているのが主人公で、ドイツで知り合ったフィアンセが違う男(女装しています。)と婚約しているシーンです。このような場面は、非常に「ぬるい」シーンなので、これで、違和感を感じる人は、小説も、漫画も読まない方が良いかもしれません。

 

 

《『家畜人ヤプー』事件》 正体は、小説家か、裁判官か?

 1956年から雑誌「奇譚クラブ」で連載を開始された奇作『家畜人ヤプー』ですが、作者である沼正三は、覆面作家で、誰が書いたのかは不明となっていました。

 1983年に覆面作家「沼正三」の正体を名乗り出る人物がありました。彼の名は、天野哲夫、『家畜人ヤプー』が出版された当初から、沼の正体は天野でないかと憶測が飛び交っていましたが、天野は1983年まで否定も肯定もせず、沈黙していたのです。

 なぜ、彼が名乗り出ざる得なかったのか? それは、とある人物との繋がり、そして、その人物が巻き込まれてしまった「『家畜人ヤプー』事件」によるものでした。

 その事件の発端は、1982年11月、雑誌「諸君」に、沼正三の正体を告発する記事でした。

 タイトルは、

「三島由紀夫が絶賛した戦後の一大奇書『家畜人ヤプー』の覆面作家は東京高裁倉田卓次判事」
 

 記事の標的となり、沼正三の正体とされたのが、、当時、高等裁判所の裁判官であった倉田卓次でした。

 高等裁判所裁判官が、マゾヒスト小説を書いたのではないかと、騒がれ、社会現象となったのです。これが「『家畜人ヤプー』事件」と呼ばれることになります。それまで、「家畜人ヤプー」は、三島由紀夫に賞賛されたものの、一部のマニアにウケた作品だったのですが、この事件により、社会に的に広く知られることになるのです。
 それは、裁判官を務めるようなエリートが、マゾヒスト小説、しかも、日本人が「家畜」とされるという突飛な設定の小説を書いているなんて!!という、野次馬的な好奇心から、引き起こされた騒動です。(鈴木 2010)
 つまりは、高等裁判所の裁判官が、突如、覆面作家の正体だと、決めつけられ、社会がそれを信じてしまったのです。
 倉田卓次さん自身は、自分が作者であることを否定していますが、現在でも、Googleで「倉田卓次」と検索すれば、以下のような結果となります。

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 倉田卓次さんは、法学博士で、法学系の論文・書籍だけでなく、エッセイなどの書籍も執筆されているのですが、やはりこの「家畜人ヤプー」事件の爪痕が、大きく残っていることが窺い知れます。
 
 
 

「『家畜人ヤプー』事件」の真相

 倉田卓次さん御自身がが、この「家畜人ヤプー」事件について、判例タイムズ(2005年1180号)で、「老法曹の思い出話(6)ー「家畜人ヤプー」」という題名で、この『家畜人ヤプー』事件の真相と、自身の考えについて書いてらっしゃいます。

 

倉田卓次と、覆面作家Aの出会い

 話は、昭和30年ごろに遡ります。倉田さんは、東京地裁判事補から、長野家裁判事補として、飯田支部に移ると、(東京に比べ事件が少ないので)仕事量が激減し、読書や勉強に時間を使うことができるようになったそうです。

 そんな頃、出会ったのが、「奇譚クラブ」という、サディズム、マゾヒズム、フェティシズムといった異常性愛を売り物にした雑誌でした。その雑誌では、読者同士の文通を仲介しており、倉田さんは、2人の読者仲間AとBに出会います。(倉田さんは、Aと名前を伏せていますが、上述した天野哲夫でしょう。)

 文通を続けているうちに、倉田さんは、Aから相談を受けます。

戦後米国に占領されてからの日本人の白人崇拝を諷刺するマゾ小説の構想を懐き、私は相談を受けた。(倉田 2005:4)

  その構想を聞いた倉田さんは、

Aの相談してきた大規模な民族・人種ぐるみのマゾ小説の構想に利用できる SFからのアイデアを提供し、今までわが国文学界に例のない「未来幻想マゾ小説」を作れ、と煽った。(同上)

  と、アイデアを与えたり、助言したりするようなったそうです。しかし、倉田さんは、過ちを犯してしまうのです。倉田さんは、「自分がこういう小説を書こうと思っている」と、Bに、自分が作者であるように、文通で伝えてしまいます。「詰まらぬ虚栄心」から、してしまったことであると、述懐されていますが、この過ちは、その後に『家畜人ヤプー』事件を引き起こすことになります。
 
Bの暴露と『家畜人ヤプー』事件
 1982年(昭和57年)の秋、突然、雑誌『諸君』の編集長が来て、「あなたが沼正三本人であると、あるひとが言っていますが本当ですか。」という質問をされます。Bが暴露してしまったのです。しかも、文通した手紙を証拠として雑誌社に提出しているようでした。倉田さんは、否定したのですが、後日、『諸君』から、記事が出てしまうのです。
 それが、上述した「三島由紀夫が絶賛した戦後の一大奇書『家畜人ヤプー』の覆面作家は東京高裁倉田卓次判事」という記事です。
 マスコミは、倉田卓次さんを覆面作家の正体として、大きく取り上げ、雑誌記者、新聞記者が、家を取り囲むような大きな騒動になってしまいました。
 そんな中、天野哲夫が、正体は自分であると名乗り出るのですが、マスコミは取り扱うことなく、倉田さんについての報道を続けるのでした。それは、高等裁判所判事が実は、マゾヒスト小説家であった、という方が、雑誌や新聞が売れるから、という理由だったのでしょうか。
 この事件によって反応したのは、マスコミだけでなく、右翼団体も、乗り出す事態になります。それは、この本の内容が、日本(人)を貶めるものであった、ためです。倉田さん自身も、法廷への襲撃予告を受けたそうです。実際に、出版社に、乗り込んで来た右翼の方もいたそうですが、倉田さんは、笑い話として、捉えているようです。
「家畜人ヤプーの著者沼がいるか?」とその1人が叫んだのに対して、矢牧君が「あんたがた。「家畜人ヤプー」は三島由紀夫が褒めた本、絶賛した作品だということを知っているんですか?」と問うと、「エッ!三島先生が褒めた?」と態度を一変、口吻が軟化し、結局知っているのは本の名前だけで、実際に読んだ者がいないことが暴露されると「明日又来るぞ!」とよこして引き上げていった。世慣れた康(※康芳夫)が、警察に連絡して翌日来た連中が署に連行され、結局謝り料10万円を向こうが支払った、という愉快な出来事もあった由。(倉田 2005:7)
 他にも、最後まで、信じてくれた友人や、「倉田君ほど勉強している人はいない、もし、小説まで書いているならスーパーマン」だと最高裁長官が、評してくれたりと、様々な人間のあり方がこの事件で、見られたようで、スキャンダルに巻き込まれた最中、客観的に、人間を観察している倉田卓次さんの度量に驚いてしまいます。
 
 
倉田卓次が『家畜人ヤプー』に思うこと
 この「老法曹の思い出ばなし」の最後に、倉田さんが、「家畜人ヤプー」に対しての思いを書いてらっしゃいます。
戦後の日本なればこそ生まれた一奇書であることは間違いないが、そういう歴史の一頁で終わるのかどうか。私は、民族ぐるみのM(※マゾヒズム)という点での類書のなさからいって、今後も、丁度フランス文学史の裏のページにサドの作品が載っていて捜す者には読めるように、再起の文学史の裏頁に残るのではないかと考えている。「面白いぞ、やれやれ」とAを煽った私としては、その位のレーゾン・デートル(※存在理由)は認めてやりたいのである。
 と、文学史の裏ページに、残って欲しいと、述べているのです。最近でも、「家畜人ヤプー」は、漫画化されたり、オマージュ作品が出版されています。裏ページに止まらない可能性も、あるのでは?と思っていますね。
 
 今回の記事では、『家畜人ヤプー』にまつわる事件について書いてみました。奇書ですが、なぜか、人を惹きつける、不思議な本です。
 わたしの本棚で、絶対に見つかりたくない、本の一つですが、、、、
 
 
 

《主要参考文献》

倉田卓次 2005年 「老法曹の思い出ばなし(6)ー「家畜人ヤプー」」『判例タイムズ』1180号。

ci.nii.ac.jp

 

 

 

 

 

 

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