オニテンの読書会

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知っておきたい日本酒のお話ー口噛酒、下り酒、金魚酒、コップ酒、地酒ー

 みなさんは、日本酒を呑みますか?近年では、日本酒をコンセプトにしたおしゃれなお店も増え、興味をもってらっしゃるかたも増えてきているようです。わたしはと言いますと、鯨飲牛飲の輩ですが、少しずつ日本酒についての勉強を行っています。

 【目次】

 

 

 今回の記事では、日本酒についての重要なタームから、日本酒にまつわる歴史について書いていきたいと思います。悪酒と呼ばれたものの存在を知ることも重要だと思い、悪酒の誕生経緯についてもまとめてみました。

 

《御神酒》、至高の嗜好品 ー古代から現代までー

 日本酒について考えるときに、見過ごしてはならないのは、神様にささげる神饌としてのお酒、御神酒(おみき)です。なぜ、御神酒が重要なのでしょうか?それは、日本酒を作る工程・材料を考えれば、明らかです。古代の日本において、酒の原料となる米は非常に貴重な食料でした。

 神饌には、生のまま、加熱調理されていない「生饌」と、加工された「熟饌」に大別できますが、神様に好まれるのは熟饌のようです。炊いたご飯、餅やお菓子など、神棚には熟饌を供えることが多いですね。神様に捧げる食べ物としては、やはり手の込んだものを出したい、と思うのかもしれません。

 こうした、「手の込んだ」熟饌の中でも、原料が食料として貴重な「米」、そして、それを食べるのではなく、「酔う」ことを楽しむ嗜好品として加工している点を鑑みますと、酒は最上位レベルの神饌、ご馳走です。

 現在でも、お祭りの直会(なおらい)でみられるように、酒は神人共食の代表的な存在です。

 古く、神に捧げられる酒は、濁酒でした。濁酒は、「一夜酒」とも言われていました。これは、神主などが、本殿にて祭式のためにつくったものです。祭礼後は、直会で振る舞われることになります。この「一夜酒」の一種が、「口噛み酒」なのです。

 

《口噛酒》、汚れなき処女が「噛むす」酒 ー古代の酒造りー

 あの映画「君の名は。」で有名になった「口噛酒」についても見てみましょう。日本では、はじめから麹を使って酒を造ってはいなかったのです。『古事記』には米を噛んで酒を造ったとあり、「口噛酒」が日本酒の原型であると考えられます。

 そもそも、「酒を醸す」の語源は、酒の原料となる米を口で噛んで造った「噛むす」から来ています。

 この酒を呑むと、気分が快い気分になれることから、発酵過程を一種の神秘的現象と捉え、その酒は神に供えることが多かったので、酒そのもの、そして酒を造ることが神聖視されるようになりました。そのため、口噛みの作業をする者は、汚れなき女性として処女が担うことになっていました。

 

《下り酒》、京から江戸へ運ばれると美味しくなる酒 ー江戸時代の酒文化ー

 時代をすこし進めますが、江戸時代のお話です。江戸の庶民たちに親しまれていたお酒は、関西から船で運ばれてくる「下り酒」と呼ばれる酒でした。『万金産業袋』には、「総じて江戸にては、一切地造りの酒はなし」と説明されるように、江戸には、造り酒屋はほとんど存在せず、海上輸送(菱垣廻船や樽廻船など)によって、池田、伊丹などの酒蔵から運ばれてくる「下り酒」を呑んでいたのです。

 海上輸送によって運ばれてくる「下り酒」ですが、その美味しさが話題となりました。それは、「あれっ?、運ぶ前より美味しくなっていないか?」というものでした。海の上での日光や風などの影響で、味が変化し、美味しくなっていたのです。そのため、京都や大阪では、わざわざ、江戸に運んだあとの「下り酒」を、関西に【逆輸入】する「富士見酒」が愉しまれていたそうです。

 

 江戸時代においては、酒を作る量をコントロールすることで、お侍さんの「お給料」である米の価格を安定させようと幕府からの働きかけもあった、ということも面白いポイントです。

 

《乾杯!!》ー日清・日露戦争後の宴会ブームー

 時代を明治に進めます。日清戦争、日露戦争によって、出陣の宴、軍功を祝う宴が見られるようになるのです。もちろん戊辰戦争などでも、そのような宴はあったのですが、これらの戦争は、徴兵制度がしかれた後だったので、武家という専門家以外だけでなく、一般家庭にも、そうした宴をおこなう習慣が入り込んでいったのです。

 徴兵によって、村落から若者が戦地に赴く、そこで出陣の宴、そして凱旋には、祝宴が催され、ぞんぶんに酒が振舞われるのです。こうした宴の一般化により、日本人の飲酒習慣が定着していくことになります。ちなみにですが、「乾杯」もここで、定着します。

 祭礼、祭祀をともなわない酒文化が、広まっていった契機になりました。

 

《金魚酒と三倍増醸酒》、日本酒のイメージを作り出してしまった惡酒 ー戦中、戦後の日本酒ー

 第二次世界大戦下において、酒の醸造方法が変わっていきます。

 1938年には、国家による統制に先立ち、酒造組合が、13パーセント減の生産統制を行うことを決定しました。その後、生産量を減少させながら、酒蔵を維持しようとしていったのですが、1939年には、白米禁止令により、立場はますます悪化し、最終的には、清酒製造量は、1937年の製造量の11.6%まで減少しました。(こうした状態をみてみますと、特攻隊の隊員に酒が配給されていることの意味を考えてしまいます。)

 このような環境下では、酒を手にいれることは、非常に難しく、ヤミ市での取引が横行したのでした。そのヤミ市では、割り水によって酒の増量を行なった「金魚酒」が市場で氾濫しました。金魚酒は、金魚が泳げるくらい薄い酒、と言う意味です。こうした質の悪い酒でも売れた時代があったのです。

 そして、戦後においても、質の悪い酒が存在し続けました。それは、三倍増醸酒(三増酒)と言われる酒でした。三増酒とは、醸造用アルコールや糖類、酸味料、調味料などを添加した酒です。米と水から造った酒に比べて、三倍にも増量されたものです。これは、第二次世界大戦の米不足と、税収を確保しようとする政府、そして「酒だったらなんでもいい」という人々によって生み出されたものでした。

 この三増酒は、戦後も作られ続けました。それは、大手メーカーだけでなく、地方の酒蔵も同じでした。この三増酒は、味も悪く、深酔いするとされ、日本酒の持つイメージを悪化させる要因となり、長く続くビールや焼酎、ワインなどの洋酒との戦いに苦戦する要因となってしまうのです。

  

《コップ酒》、革命的日本酒の台頭

  普段呑む酒として、「ワンカップ大関」を代表とするコップ酒の存在は、無視できないものです。確かに、コップ酒といいますと、少しネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、わたしとしては、コップ酒は、他の日本酒と比べるべきものではないと考えて居ます。お店で食べるラーメンと、カップラーメンを比べる必要がないのと同様です。その重要性は、カップラーメンが、ラーメンの「食べ方」に革新的なものであったように、コップ酒は、日本酒の「飲み方」、「飲む場所」に確信を起こしたものでした。

 ワンカップ大関の出現には、1959年におけるビールの年間出荷量が日本酒の出荷量を超えるという事件が、大きな契機となりました。つまりは、「このままでは日本酒自体が終わる」という危惧でした。そして、1960年、所得倍増計画から、レジャーブームの出現により、酒を楽しむ場所にも変化が起きた時期でもありました。

  ワンカップ大関は、「日本酒は燗」という概念を打ち破り、日本酒を冷蔵庫で冷やすという愉しみ方を広めた酒でもあります。また、前述したレジャーにおいて、手軽に持ち運びが出来、少人数でも飲みきることができることも、その特徴なのです。

 

 

《地酒》、大手メーカーへの反発から、大手メーカーとなった「地酒」

 1980年代には、前述した三倍増醸酒の存在や、大手メーカーによって造られた画一的な酒の味への不満、そして旧国鉄によるディスカバリー・ジャパン・キャンペーンにより地方への旅行に関心が集まると、地方各地の酒蔵で造られた日本酒に注目されるようになります。。

 こうした地方で醸造された日本酒を「地酒」とよび、代表的なものは、「越乃寒梅」、「八海山」などでしょう。地酒ブームとともに、淡麗辛口の酒も普及するようになりまる。現在でも、淡麗辛口の地酒が、かなり多いようにも感じます。こうした、淡麗辛口という酒の存在も、アサヒスーパードライの出現により大きく影響をうけたものです。 

 すでに、日本酒が、「冷やす」、「辛口」であることが当たり前のようになっている現状に気がつきます。

 (辛口か、甘口かは、日本酒のラベルの「日本酒度」を見ればわかります。プラスであればあるほど辛口、マイナスであればあるほど甘口になります。)

  この「地酒」という言葉の意味について、少し考えてみたいのです。「地酒」とよばれる酒蔵の多くが、全国に流通しています。これを「地酒」と呼ぶのだろうか?と、疑問に思います。わたしとしては、旅行先で、その地の酒を吞む、ということを「地酒を吞む」という行為だと考えているからです。

 現在でも、全国に流通していない、本当の意味での「地酒」があります。そうした酒は、「特約店販売」とラベルに書かれており、特別に契約した酒店にしか、おろしていない酒です。旅行先のおみやげには、こうした銘柄を選ぶと良いかもしれません。

 

  酒文化については、これからも少しずつまとめていきたいと思っています。たとえば、ルイス・フロイスが、戦国時代の日本人の酒文化について驚いた話などを。

 

 

《参考文献》

居酒屋の誕生: 江戸の呑みだおれ文化 (ちくま学芸文庫)

居酒屋の誕生: 江戸の呑みだおれ文化 (ちくま学芸文庫)

 

 

うまい日本酒はどこにある? (草思社文庫)

うまい日本酒はどこにある? (草思社文庫)

 

 

酒の日本文化 知っておきたいお酒の話 (角川ソフィア文庫)

酒の日本文化 知っておきたいお酒の話 (角川ソフィア文庫)

 

 

酒の話 (講談社現代新書)

酒の話 (講談社現代新書)

 

 

ワンカップ大関は、なぜ、トップを走り続けることができるのか?---日本酒の歴史を変えたマーケティング戦略

ワンカップ大関は、なぜ、トップを走り続けることができるのか?---日本酒の歴史を変えたマーケティング戦略

 

 

 

酒が語る日本史 (河出文庫)

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