オニテンの読書会

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いのちとは、何か? 卵子凍結から始まる物語 台湾映画『My Egg Boy(我的蛋男情人)』のご紹介

  台湾の異色ラブコメディ『My Egg Boy』(2016)(中国語タイトル:『我的蛋男情人』)をご存知でしょうか!?

 このドラマは、トレンディ+ファンタジー系のラブコメで、映像が非常に綺麗でロマンチックで、主役の役者さんもいうまでもなく美男美女です。ただし、この世界観が非常に興味深く、「いのちとは何だろう?」と考えさせる秀逸な作品と思います。

 

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あらすじ

 主人公は32歳の冷凍食品会社で勤めている前向きで陽気なキャリアウーマンです。

長年付き合っていた彼氏と結婚する気はあるのですが、社長から新商品開発プロジェクトを任せられ、仕事が忙しさのあまりに、彼氏から別れを告げられてしまいます。「結婚は?子どもは?人生計画は?『卵』の賞味期限もう来ちゃうよ」など、親からの質問が次々と迫り、同僚のすすめで、ダメもとで生殖医療センターの案内ビデオを見てしまいます…

 「卵子凍結は自分自身に終生の幸福保険を買うようなもんだ。運命の人と出会えるまで、より多くの時間を儲け、幸せの人生を掴もう。」というキャッチフレーズに打たれ、彼女は卵子凍結を決意しました。

 卵子凍結した後、主人公の仕事や恋愛(食材の鮮度にこだわるイケメンシェフとうまくいきました!)などを中心とする「現実の世界」以外に、生殖医療センターの中にある「卵子の世界」の物語も展開します。「卵子の世界」は真っ白な空間で、着ぐるみのような卵子と精子達は生活しています。主人公の卵子は他の「先輩」精子・「先輩」卵子と出会ったり、「母」の恋愛を応援したり、出生を待っている日々を過ごしていました。

 ある日、 「母」が新しい恋人とうまくいっている様子を見て、思わず喜んでいた主人公の卵子に対し、仲間から「うまくいってもあなた出生できないよ。『新鮮な』ものがあるなら、冷凍なやついらなくない?…私達、基本的に捨てられるようなもんだ。」の冷やかしを受け、卵子は自分の存在の意味を考え始めます…

 

…という、卵子ラインに着目した私がまとめたあらすじです。

(恋愛ライン重視の友人から「後半全然違う話じゃん!」と言われましたけどw) 

 タイトルの『My Egg Boy』(中国語タイトル:『我的蛋男情人』)は二つの意味として解けると考えます。一つ目は、主人公とその卵子との間の物語、そしてもう一つは主人公とその卵子の「パパ」に当たる人物との物語です。何れにしても、アラサー女性の「賞味期限切れ」のプレッシャーに直面する不安の反映でしょう。

 

 

 

準生命である精子と卵子 

 『My Egg Boy』の中に、卵子を擬人化する考えは、おそらく1972年、ウディ・アレンの映画、『誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』(Everything You Always Wanted to Know About Sex* (*But Were Afraid to Ask))から、真っ白な空挺兵の造形を取っている精子達からヒントを得たのではないか、と思いました。

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 ウディ・アレンの映画は7つの短編によって構成され、7つ目の『ミクロの精子圏(What Happens During Ejaculation?)』は、人体を一つ巨大な工場として例え、英語のタイトルの通り、「あの目的」を完成するため、司令部にあたる脳は各器官に指令を下し、各器官の管理人(全員普通の仕事に頑張っているおじさんw)が一生懸命働いている、という面白い発想の短編です。

 ウディ・アレンの映画の中に、精子達は出征前の空挺部隊として描かれ、基地(男性の体内)から離れる前に「私たちは生命を作るんだ!!」と叫びました。前述の戦争的な雰囲気と異なり、『My Egg Boy』は静かで、平和な世界で、精子と卵子達は個性が強調され、絶望したり、希望を持ったりしています。冷凍された10年間、彼らはただただ自分と離れている「親」を思い、生まれる日待ち続けるのです。

 「性」と距離を取っている場所に置かれ、もう自分の体の一部ではなくなった精子と卵子たちは準生命として扱われているような気がしました。これはただ映画の中の話ではなく、生殖医療の進歩とともにすでにはじまたことです。例えば、2013年のAERAでは、「自分の子どもと同じ? 凍結卵子「破棄できない」女性たち」の報道がありまして、命の始まりはどこにあるのかを再び考えさせられました……

 

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凍結10年目のベテラン卵子(左)に相談している主人公の卵子(右)

 

 出生を望んでいる卵子達とともに、主人公の女性も夢の中で自分の卵子に話しかけているシーンがあります。恋愛の報告したり、仕事の愚痴ったりしまして、自分のことを卵子(いや、『子ども』ともいえるでしょう)のために、色々頑張っている「母」と位置付けるのです。不妊治療の書籍、『ママ、待っててね!―あなたの卵子が赤ちゃんになるまで』でも、卵子を擬人化する手法で優しく読者に話をかけています。

ママ、待っててね!―あなたの卵子が赤ちゃんになるまで

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卵子凍結、未知の未来に対する「保険」

 そして、もうひとつ言いたいのは、 映画のスポンサーは、台湾の大手生殖医療業者と冷凍食品業者です(笑)……なので全編長めの広告としか見えないという非難も多々あり、卵子凍結の高い費用(最初の施術、保存、体外受精)、失敗についてもあまり着目されません!……個人的には、広告としてみても、強引な感じはせず割とちゃんと考えて作った広告だと思います。 

 映画の中で、卵子凍結のことを「保険」という比喩が用いられています。卵子老化の前に可能性を保留することができますが、必ずしも使うとは限らない(使うとしても、成功と限らない…)。また、台湾では、独身女性でも卵子凍結することができますが、人工生殖は「夫妻」に限定されていますので、今後結婚相手が見つからなかったら、「使いたい時」でも「使えない状況」なのです。日本においても、似ているような状況で、2013年の『AERA』では卵子凍結しても使わない? 独身女性へ凍結容認もジレンマ」と取り上げられています。未来には不確かなものが多すぎますし、本当に産みたいか産みたくないかを決める前に、「産む」という選択肢を増やすだけで安心できるのでしょうか。

 そんなことを考えてしまう、物語なのです。 

 

 

 

 

最後ですが、安心してください、これはラブコメです。 

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北欧旅行に行った主人公と新しい恋人。(台湾は基本的雪が降らないので、雪景色もひとつロマンチックポイントだと思います!)

 

 

残念ながらこの映画では日本で正式に上映・放送されていないようですが、産むことに対する女性の悩みを描かれた小説もあります。医療技術は希望をもたらしている一方、自分の決断による悩みも増えてきました……

産む、産まない、産めない (講談社文庫)

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中華系の映画・ドラマについては、他にも記事を書いておりますので、ぜひそちらもご覧ください!

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