オニテンの読書会

文化・民俗や、オススメ本の紹介、思ったことも書きます。

退廃と美麗 東南アジア文学 黎紫書『野菩薩』

 小説を読む際に、私は何となく二つの部分を気にします。

 一つ目は物語性で、いわゆるストーリーの進み具合、物語の構造、筋が通っているか否か、バックグラウンドとキャラクターの設定などの部分に当たります。

 そして、もう一つは文章の表現力で、どれぐらいに「文章」そのものが使いこなせるか、きれいな言葉、描写の手法などに関連しています。

 

自分にとって二つとも非常に重要で、どちらも人を惹きつける力を持っていると思います。

 

 私は奥田英朗の作品が好きです。非常にシンプルな文章ですが、キャラクターの設定や状況の設定が大変優れています。人々の生活の断片を切り取るような短編小説の『ガール』、『マドンナ』とか、社会的な描写を満ちている『最悪』、『邪魔』、『無理』とか、魅力的なキャラクターを持つ伊良部シリーズとか。日常的な物語も、重い物語も、テンポよく進んでいき、物語性が非常に素晴らしいと思います。そして、くせのある話し方や書体ではありませんので、台湾人の自分にとって日本語の勉強にもかなり役に立ちました。

 

ガール (講談社文庫)

ガール (講談社文庫)

 

 

邪魔(上) (講談社文庫)

邪魔(上) (講談社文庫)

 

 

 

 それに相反して、文章の表現力が長けている作品は、どちらかと言えば音楽ビデオのような感じで、きれいな映像、特殊な視角、意味が詰められた象徴的な要素などに溢れています。物語ではなく、ふわーとした設定が投げられ、感情を最大限まで引き出せるかが勝負です。

 今回紹介したい作品、『野菩薩』とその作者、黎紫書は、私にとって、バリバリの表現力が長けている作家であるとおもいます。

 黎紫書(レイ シショ)は、マレーシアの華人(中国系)作家です。

 女性、1971年生まれ。1995年、マレーシアにおいて花蹤文学獎を取った後、台湾の文学界の注目を集め、2000年代あたりから、その作品が台湾に出版し始めました。

 ベストセラーになるほどの売れ行きではありませんが、華文小説が好きな人は知っている作家だと思います。本当に文章が非常に上手で、中国語勉強の上級者にはおすすめです(意識の流れの手法が沢山使用され、初心者は絶対5行目のあたりから謎の状況に入り込みますので、あまりおすすめできません(笑))。

 現在、黎紫書の中国語の著作は10冊以上にのぼりますが、私が読んだことのあるのは、『天國之門』(1999)(天国の門)、『山瘟』(2000)(山の疫神)と今回紹介したい『野菩薩』(2011)、の三冊で、全て短編小説の方です。

 

 黎紫書の著作は日本にはあまり見当たりませんが、人文書院が出版された「台湾熱帯文学シリーズ」の第四冊、『白蟻の夢魔』の中に、12人のマレーシアの華人作家の作品が収録されまして、黎紫書もその中の一人です。『白蟻の夢魔』に収録された彼女の作品は、「白蟻の夢魔」(蛆魘)、「山の疫神」(山瘟)、「北の辺境 」(國北邊陲)の3作がありまして、最後の「北の辺境」(國北邊陲)も『野菩薩』に収録されています。

 

 

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カバー出典:聯経出版社オフィシャルブログ

私はこのカバーも好きです!

 

野菩薩』の中には、以下の10作の短編小説が収録されました。

表記方式:中国語元タイトル(日本語訳)
國北邊陲 (北の辺境)、無雨的郷鎮‧獨角戲 (雨のない街・モノローグ)、疾(やまい)、我們一起看飯島愛 (私達は一緒に飯島愛を観た)、七日食遺(七日食遺)、假如這是你說的老馮 (例え彼はあなたの言った馮さん)、此時此地 (いまここ)、生活的全盤方式 (生活の全面的な方式)、野菩薩 (野菩薩)、盧雅的意志世界 (ロアの意識世界)

 (「北の辺境」以外は自分の訳です。決して良い訳ではありませんが、意味を理解する時、何となく参考になれば幸いです。)

 

 私にとって、黎紫書の作品は基本的に、毒々しくて、湿っぽくて、儚のような感じがします(良い意味の!!)。

 穢れているが非常に綺麗でした。寂しいが騒がしく感じました。

……廃墟の撮影集を眺める感じとも言えるでしょう。

 あまりにも抽象的なので、取り敢えず内容を少し見てみましょう。 

 

 短編小説の、「疾(やまい)」について

あらすじ:娘の視点から、仲良くない父の病気と死を看取る話です。

 台湾版の本屋さんのサイトに内容の一部を試し読みとして載せていましたので、ここでは最初の一段落を訳してみました。 

如果我死去,我們會更靠近一些。而我沒有死,只是一身病。病。沒有痛,只是內裡很乾的一種狀態,很渴,很餓,不斷嘔吐。那麼一個有鞭炮聲的春,塑膠桃花真誠地開著,門前的春聯紅得燒起來。我躺在懶人椅上,想像自己將死。…(中略)……想像遂而為病,虛幻為病,疏懶為病,不死亦為病。

もし私が死んだら、私達はより近づいてくるだろう。しかし私は死なず、ただ全身の病気だ。病。痛みがなく、ただ内面が頗る乾いた状態で、渇いて、餓えて、吐きが止まらなかった。爆竹の音が聞こえるとある春、プラスチック製の桃の花が真摯に咲いていて、入り口の春聯が焼けるように赤く、私はリクライニングチェアに横たわって、自分が死んていくことを想像する。……(中略)…想像がついに病気になり、虚幻が病気になり、懶惰が病気になり、不死も病気になる。

(出典『野菩薩』、「疾」、p.52より摘録)

 …という感じで、とにかく病みまくります(笑)

 私の日本語能力でうまく訳せないですが、中国語をみると本当に文章力すごいです。

  

 

 黎紫書の文体を冷たく感じる時が多く、私もその冷たさが好きです。

ただし、本書の中に収録された「野菩薩」は違って、相対的に温かい作品になっています。

 物語は双子姉妹と幼馴染の男の子をめぐる話です。主人公は中年になった双子の姉の方で、現在を混ざって若いごろの物事を思い出します。

 控えめの感情描写で、全編は透明感に溢れていまして、タイトルの「菩薩」は、なぜかここで温かく人間を見守っている感じがします。

 また、物語舞台は、マレーシアのイポーになっています。

 中国や台湾のような、漢民族が人口の大多数を占めた地域と違って、東南アジアの方ではマレー系、インド系の住民が多数派の街もありまして、色や雰囲気はとにかく多様的に感じます。ただし、寺廟が信仰の中心となっているのは、華人(中国系)の人にとってはやはり共通的なもので、主人公が寺廟にお参りに行ったり、幼馴染の男の子が寺廟のチンピラになったりして、割と共通なイメージもあります。

日本人の方は変だと思いますが、台湾の方もけっこう寺廟と地方勢力・極道と関わる話がありますよ。……台客を紹介する時取り上げた映画、『モンガに散る』(2010)も同じで、主人公側の勢力も寺廟を占拠しています。予告編を観ても寺廟で行われるシーンが多数を占めました。)

 

 

文学にあまり詳しくないので、うまく表現できず、変な紹介文になってしまいましたが、『白蟻の夢魔』のような、馴染みのない東南アジア文学小説を読んでみたら如何ですか。

 中国語の上上上級者を目指しましょうか!!!

 

 

白蟻の夢魔: 短編小説集 (台湾熱帯文学)

白蟻の夢魔: 短編小説集 (台湾熱帯文学)

  • 作者: 黎紫書,陳政欣,温祥英,荒井茂夫,今泉秀人,豊田周子,西村正男
  • 出版社/メーカー: 人文書院
  • 発売日: 2011/09/20
  • メディア: 単行本
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