オニテンの読書会

文化・民俗や、オススメ本の紹介、思ったことも書きます。

200年前にタイムスリップしたら、自分は「使える人間」なのか? 知識について考える。 トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』を読んで。

 もし200年前にタイムスリップしたら、自分はその時代の人々に有用な情報を与えることができるのだろうか?と考えてみると、自分の生活が自分のあずかり知らない機構をもった「文明の利器」によって支えられていることに気づく。スマホ、パソコン、車など、ほとんどの生活必需品を作ることも、機構を理解することもできない、自分の無知ぶりに愕然としてしまうのだ。

 【目次】

 

 

 みなさんは、タイムスリップして過去に遡った時、自分が活躍している様子を想像できますか?医者が現代から江戸時代にタイムスリップして大活躍する「JIN-仁-」は、ドラマ化されるほど人気の作品でした。この作品のように、医者といった特殊な技能をもっている人なら活躍するすべをもっているのでしょうが、同じ特殊な知識をもっているであろう弁護士や、webデザイナーの方々はどうでしょうか?

 わたしは、もちろん、自分はまったく役に立たないだろうな、と思っています。

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 今回の記事では、トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』を紹介しながら、現実世界における知識について考えてみたいと思います。

 

涼宮ハルヒの「宣言」に対する岡田斗司夫の見解

 この記事を書くにあたって、まず、オタキングとして知られる岡田斗司夫さんのことばを参照しようとおもいます。岡田斗司夫さんがご自身のニコニコ生放送で、涼宮ハルヒについておっしゃっていたことをまとめますと。

「ハルヒは自己紹介の時に、宇宙人、未来人、異世界人がいたら自分のところに来いと言っているが、それはとても浅はかな考えだ。宇宙人でも未来人でも、普通の人は普通で。現代の普通の人が、坂本龍馬に会っても、楽しませることはできない」

 といって内容でした。なるほどなぁと思ってしまうのは、わたしだけでしょうか?

坂本龍馬に出会ったとして、現代の機器や環境について説明すれば喜んでもらえるかもしれませんが、自分自身の知識や技能がないので、すぐに飽きられてしまうだろうな、と思います。もちろん歴史的なことも、喜んでもらえるかもしれませんが。

涼宮ハルヒの憂鬱<「涼宮ハルヒ」シリーズ> (角川スニーカー文庫)

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未開の惑星に流れ着いた現代人のお話

 今回の記事を書くきっかけになった本、『ゼロからトースターを作ってみた結果』には、このような物語が紹介されています。『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズの『ほとんど無害』という作品です。内容は、

典型的な20世紀型の地球人である主人公は、技術的に未発達な人間の住む惑星に足止めを食らう。そこで、主人公は、彼らの社会を自分のデジタル時計や内燃エンジンなどの科学技術で、革命を成し遂げ、天才と認められ、皇帝として崇められようと企てる。しかし、彼は、まわりの人間社会がなければ、自分では何も作ることできないことを思い知らされる。サンドイッチを除いては。。。

 彼は、サンドイッチ作成担当の高官になり、サンドイッチの技術を磨き、リサーチするという神聖なる任務を与えられる。

 自分の身の回りのものでさえ、知識が及ばない現代人の生活を笑う、そんな作品なのでしょうか? みなさんは、どうお考えになりましたか? 

ほとんど無害 (河出文庫)

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トースターをゼロから作った男の話

 トーマス・トウェイツは、デザイナーで、大学院の卒業制作として、本当にゼロからトースターを作る「トースター・プロジェクト」を成し遂げます。結果は、プロローグに書いてあるのでネタバレしても良いと思うので書きますが、彼は、一つのトースターを作り上げるのに、作成期間9ヶ月、移動距離3060キロ、そして金額1187ポンド(日本円にして約15万円)をかけ、プロジェクトを達成するのです。

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

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  彼のトースターを作り上げるまでの珍道中や、科学者の教授との邂逅など、読み応えが十分で、とても面白いので、ここでは、割愛しますが、是非読んでいただきたい本となっています。

 

AI導入・普及の以前に

 昨今、AIによって、既存の仕事が奪われると言われていますが、すでに多くの仕事が科学技術の発展によって消滅しています。例えば、炭鉱などは、トランプ政権の懸案事項となって注目を浴びましたが、日本においては、消滅の一途を辿っていると言わざるおえません。現在は多くの燃料を原油に頼っていますが、もし代替エネルギーが開発されたら産油国の経済・治安も崩壊していくでしょう。こうした未来を、アニメ化されたマンガ『プラネテス』でも描かれています。

プラネテス(1) (モーニングコミックス)

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  原油やエネルギーだけでなく、ささいな発明でも、人々の仕事を奪うことになるのです。日本の農村で使われた千歯扱き「後家倒し」は、後家さんの仕事であった稲扱きの仕事を奪ったものです。

 わたしたちの社会は、すでに科学技術によって仕事を奪われているのですし、AIが導入されるのも仕方がないかな、というのが私の意見です。

 それよりも、科学技術の発展の中でわたしが問題視してるのは、知らず知らずのうちに自分たちが「無能化」、「不能化」しているのではないか、という点です。それは、すでに科学の大部分が、一般の人々のあずかり知らぬレベルのものとなっていることです。

 これは、後述する信仰へと変容する可能性を持つものであると思います。

 200年前のわたしたちに比べれば、裁縫や、塩作り、農耕などの身近であったはずのものでさえ、わたしたちの生活からかけ離れたものになって行こうとしています。

 

東北地方の漁師の話ー科学技術と信仰ー

 こうした科学技術の発達と信仰の問題についても考えると面白いです。わたしは、東北地方の南三陸地方で、地域の人々に聞き取り調査をおこなったことがあるのですが、そこでこんな話を聞きました。

 それは、科学技術の発達によって、むしろ神頼みが増えたという漁師さんの話でした。かれの話によると、魚群探知機など最新機器を搭載するようになり、それらの機器が故障すると、どうしようもない。何もできない。機械が壊れたら、地域の神社で祈祷してもらう、もしくは、拝み屋さんに占ってもらう、という状況だそうでした。

 つまりは、自分自身では何もできない、機械が自分の船の中に増えたという結果になったのです。それは、自分の知識や技術ではどうしようもできない、不気味で、便利な機械の出現により、民間信仰の活躍する場が増えたということになります。

 

最後に

 こう考えてみると、200年前にタイムスリップしたとして、現代の科学技術を用いて、人々の生活を改善するような有用な情報を、人々に与えることは難しいな、と思います。

 それは、すでにわたし達の身の回りの機械や環境が、わたし達自身の知識や思考の及びもつかないレベルに達しているからでしょう。

 わたしは、もしもの時のために、水の濾過方法と、火起こし方法だけは、勉強しました。この知識は、災害時でも活用できると思うので、タイムスリップしてもしなくても知っておいて有用なものだと思いますw

 また、わたしが考えたのは、科学技術の発達によって生まれた科学信仰自体が、本当に「信仰」となっているようにも感じるのです。自分の知性を超越した「科学」が存在し、それを信じれば、人生は安泰であるような。

 もちろん、科学を理解し活用することは、非常に重要しょう。しかし、自分が理解していないことを、「理解しているように語る」ことには、少し違和感があるのです。

 「科学的にありえないよ。」とよく言う人がいますが、たいていそう言う人は、数式やデータで、その証拠を表してはくれません。自分自身が理解できない「科学的」は、一体何をさしているのか、そこには妄信が少しばかり含まれているように感じるのです。

 今回の記事を書いて考えたのは、科学技術が発達すればするほどに、わたし達自身の知識を超えて、「わからない」ことが増えていくのだろうな、という問題でした。この「わからない」部分が増え、集合化すれば、信仰となるのだろうかと、考えた今日この頃でした。