オニテンの読書会

文化・民俗や、オススメ本の紹介、思ったことも書きます。

未来を、遠方を見通す慧眼 カート・ヴォネガット 『国のない男』

 良い本と出会った。10年以上前に、アメリカで出版されたものではあるが、その慧眼は現在のアメリカも、そして遥か彼方の日本までも、見通していたのだろう。没後10年経った、戦後アメリカを代表する作家によるエッセイ集を、ぜひ一読していただきたい。

【目次】

 

 

 

 毎月新刊を2〜4冊ずつ読んで、紹介していきたいと思います。今回は、3月22日に文庫化されたカート・ヴォネガット著『国のない男』という本です。とても印象的な表紙の本ですね。ポップな表紙とともに、非常に平易な文章で書かれているエッセイです。ページ数も、200ページ弱なので、1日あれば、読み終わることができます。

  著者の深遠で、軽妙な、思想に触れることができる、とても素敵なエッセイ集です。

国のない男 (中公文庫)

国のない男 (中公文庫)

 

  著者紹介

 カート・ヴォネガット(1922-2007)

 アメリカ合衆国、インディアナポリス生まれ。現代アメリカ文学を代表する作家として『プレイヤー・ピアノ』、『タイタンの妖女』、『スローターハウス5』などの作品を発表。2005年に、遺作となる『国のない男』を刊行、2007年4月ニューヨークにて逝去。

 内容

人間への絶望と愛情、そしてとびきりのユーモアと皮肉。世界中の読者に愛された、戦後アメリカを代表する作家、ヴォネガット。その遺作となった当エッセイで軽妙に綴られる現代社会批判は、まるで没後十年を経た現在を予見していたかのような鋭さと切実さに満ちている。この世界に生きるわれわれに託された最後の希望の書。

 

 それでは、おすすめポイントを紹介したいと思います。

 

小説家による物語批評

 この本では、小説家である著者が、有名な物語を、幸不幸の浮き沈みと時間経過で解説しております。たとえば、かの有名な「シンデレラ」は以下のように表されます。

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 こうした図で表されるとわかりやすいですよね。そして、彼はカフカや、シェイクスピアの「ハムレット」について考察を続けます。

 現代アメリカ文学を代表する小説家による物語批評、のぞいて見たくないですか? 

 

 

ユーモアとは、何か

 とある脳科学者が、「日本のお笑いには風刺がない」とTwitterに投稿したことに、爆笑問題の太田光さんが、「自分たちを笑うことの方が、笑いとして質が上だ」とラジオ番組で反論したことが、話題になりましたが、この作品の著者ヴォネガットは、本当のジョークは、「己の愚かさを笑うこと」が含まれていると示唆します。

 また、彼は、「唯一わたしがやりたかったのは、人々に笑いという救いを与えることだ。ユーモアには人の心を楽にする力がある。アスピリンのようなものだ。」と述べているように、ヴォネガット自身に、確固たるユーモア論が存在するように感じます。

 

 この本では、彼のユーモアに満ちた表現が多く見られます。

 たとえば、外国(敵対国)がいつ攻撃してくるかわからないのに、自分たちは何もできないのか、と疑問を投げかける女性に対して、

では、われわれすべてのために、ショットガンを買ってーできれば12口径の二連式がいいー隣の家に飛び込んで、その家の人たち(警官を除く)の頭を吹き飛ばしてください。みんな、武装しているかもしれませんから。(137頁)

 と、返答しています。なかなか、痛烈な答えであるように思えます。

 この答えを見たときに、アニメ、「ザ・シンプソンズ」で、ムスリムの家族が引っ越してきて、過度に警戒してしまう主人公ホーマーを描いた1話を思い出しました。ユーモアとは、自分たちの中に、そして向かう先は、自分たちにあるのかもしれません。

 

 

国のない男、ドイツ系移民の血筋

 この本の題名である「国のない男」についてですが、これは、この本が出版された時代のブッシュ政権下、イラク戦争によりアメリカへの反発が世界で蔓延する状態を鑑み、作者が標榜したものです。これには「アメリカには、すでに、わたしの居場所がない」という意味もあるでしょうし、「国という概念に縛られない」という意味もあるように思えます。それは、彼が人間主義者であり、移民をルーツにもつことからも推察されます。

 彼は、ドイツ系アメリカ人であり、第二次世界大戦を経験した人物でもあります。それは、自分の故郷・出自が「敵国」とみなされ、戦わざるをえない状況を意味します。彼自身に、自分は、「敵国」のドイツ系であり、そしてアメリカ人である、という存在の矛盾を孕んでいたのです。

 こうした経験を経た著者の書いた『国のない男』は、現代における移民に対する排外的な対策についても、大きな洞察を与えてくれるのです。

 

 

示唆に富む言葉たち

 現代アメリカ文学を代表する著者の言葉は、ユーモアを含みながらも、非常に鋭利な視線を社会に向けています。その中で、わたしが、カッコイイなと思った言葉は、こちらです。

神ではなく悪魔がこの地球を創造し、「ろくでもない人類」というやつを創造したのだ。もし嘘だと思うなら、朝刊を読めばいい。どの新聞でもいい。いつの新聞でもいい。(140頁)

  新聞に並ぶ非行・犯罪、そして政治の腐敗などを見ると、人間という存在のあやふやさを感じてしまうものです。

 また、昨今の日本で話題の夫婦の不和に対しても、以下のような言葉を残しています。

最近では、夫婦げんかになると、双方ともその原因は、金とか、権力争いとか、セックスとか、子どもの育て方とか、そんなことだと思ってしまう。しかし、それは、ふたりが自分の本心に気づいていないだけだ。本当に言いたいのは「あんたひとりじゃ足りない!」ということなのだ。(69頁)

 

 この本には、示唆に富む言葉が、つむがれています。ぜひ、一読していただいて、作者の頭の中をのぞいて見てください!

 

 

 

 

【作者の別作品】

 

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)

 

 

プレイヤー・ピアノ (ハヤカワ文庫SF)

プレイヤー・ピアノ (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,Jr. Vonnegut Kurt,浅倉久志
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 文庫
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タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,浅倉久志
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/02/25
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