オニテンの読書会

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2022年、フランスにイスラム政権が発足!? 予言か、それとも、文学か。 ミシェル・ウェルベック『服従』 おすすめ本の紹介です。

 2017年のフランス大統領選では、中道で無所属のマクロン氏が、極右政党・国民戦線のルペン氏を破り、フランス史上最年少の大統領が生まれました。今回のフランス大統領選の決選投票は、主要政党不在の異例の投票となりました。

 2017年のフランス大統領選で浮き彫りになったのは、EU離脱や、移民対策などの政策によって分断された国民でした。

 では、次の2022年のフランス大統領選は、どういった展開を見せるのでしょうか。

 この記事では、2022年のフランス大統領選を舞台にした小説をご紹介したいと思います。この小説は、予言の書となるのか、それとも、フィクションで終わるのか、未来を考えながら、読書するのはいかがでしょうか?

【目次】

 

 

ミシェル・ウェルベック 『服従』 

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

 

 内容紹介

2022年仏大統領選。極右・国民戦線マリーヌ・ル・ペンと、穏健イスラーム政党党首が決選に挑む。しかし各地の投票所でテロが発生。国全体に報道管制が敷かれ、パリ第三大学教員のぼくは、若く美しい恋人と別れてパリを後にする。テロと移民にあえぐ国家を舞台に個人と自由の果てを描き、世界の激動を予言する傑作長篇。

 

 この小説は、上記の通り、2022年のフランス大統領選で、国民戦線のマリーヌ・ルペンと、イスラーム政党党首による決選投票、そして、その後の国の動乱を、大学教員の主人公の視点で描いたものです。

 この本の世界では、2017年の大統領選で、国民戦線が決選投票に残り、左派が勝利し

た、ということになっています。つまりは、2017年の大統領選については、大きな間違いがない、ということです。

 しかし、この本が、フランスで出版されたのは、2015年1月7日。2年も前に出版されているのです。しかも、出版された当日に、シャルリ・エブド事件が起きています。数奇な運命を感じてしまいますね。

 

 

それでは、わたしが考えたこの本のオススメポイントを書いていきます!

予言の書となり得るか?  Islamificationとヨーロッパ

 この本の、興味深い点は、フランスにイスラム政権が発足し、イスラム化が進んだ場合に、国民生活にいかなる影響がうけるのか、という状況を詳細に描いていることです。物語の序盤では、街のレストランやモスクからでしか、イスラム化が進んでいないように見える社会であったのにもかかわらず、物語が進むに連れて、街が、そして人がイスラムの影響を強く受けて行く様子を、丁寧に描いています。

 この本での、イスラム化(islamification, islamization)が行き着く先は、家父長制、女性の服従、一夫多妻制などに及びます。一見、女性の社会進出や、夫婦同権が進む先進国において、このような思想が、一般に受け入れられるのかは、疑問です(ムスリムの方の間では、当然であれ)が、社会と主人公は、様々な「知性」や「価値観」に触れ、次第に馴化して行くのです。

 この物語は、フランスにイスラム政権が発足するということを『予言』しているだけではなく、その後、生まれるであろう新たなフランスの姿を描き出します。

 

 

無宗教者の改宗 新たな自己の創生

 遠藤周作さんの『沈黙』は、キリスト教の司祭が弾圧の末に棄教する「転ぶ」までを描いた作品ですが、この『服従』は、とくに宗教や信仰に興味のない主人公が、ムスリムに改宗することを迫られます。

 篤い信仰があった場合、《強制的に》他の宗教に改宗させられることは、今までの人生や人格の否定へと繋がるものですが、特定の信仰を持たない者が、《自発的に》他の宗教へと改宗することは、新たな人生や人格を形成する大きな契機となるものであると思います。

 この主人公、そしてフランスという国全体が、改宗を迫られるのです。それは、今までの人生や国の歴史の否定となるのか、それとも新たな自分を、国を生み出すものとなるのか。

 この本では、国そのものが、イスラムを受け入れること、そして、個人がその影響下で、いかに生きるのかを描いているのです。

 

 

主人公、知性的で、合理的な、ただの《男》 

 この本の主人公である、大学教授は、非常に知性的な人物です。彼は、博士論文を高く評価され、大学での教授職を得ています。彼の専門は、文学で、フランス19世紀末の作家ユイスマンスが専門です。

 彼の思考は、非常に合理的で、厭世的な傾向を持ってはいるものの、性的嗜好を抑えることができない人間として描かれます。彼は、教え子である学生も、性的対象として捉えており、性的な関係を築いています。

 

 この本では、性描写も多く、主人公が思い巡らしていることの大半が性的なものです。つまりは、ただの男として描かれます。

 正直、わたしとしては、「大学教授は、そんなことばっか、考えている人はいない」と思いましたが、主人公の性的嗜好を強調することで、知性や合理性が、その性的嗜好に結びつき、存在している様を描いているのです。

  つまりは、感情の論理化です。論理が単独で存在しているのではなく、感情が論理に先んじ、感情を正当化させるための論理を作ってしまうという性分から、知性的とされる大学教授においてさえも逃れることができない、ということなのでしょう。

 人間、とりわけ、男というものを考える機会を与えてくれる本になっています。

 

 

 ぜひ、手にとって、読んでいただきたい小説です。この本が、予言の書となるのか、単なる文学書となるのか、2022年の大統領選を待ちたいと思います。

 

 

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