オニテンの読書会

文化・民俗や、オススメ本の紹介、思ったことも書きます。

ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』を読んで。 思索する読書へ④

笑いの神へ問い続けた煩悶の日々、ハガキ職人版『沈黙ーサイレンスー』

 現在、2月19日深夜、ラジオリスナーにとって、特別な夜でしたね。寝不足の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?。

 ハガキ職人、その存在は、とても不思議です。ラジオ番組には欠かせない存在で、顔も職業もわからない、ラジオリスナーにとっては大切な「仲間」です。気づけば、番組のMCのお笑い芸人をも魅了する(笑わせる)存在。でも、素人。

 わたしも、「爆笑問題カーボーイ」でネタを読まれた経験があるのですが、痺れるほど嬉しかったことを思い出します。太田さんに読まれたことだけでなく、憧れのハガキ職人さんと一緒に番組を彩ることができたことに震えました。

 今日ご紹介する本、『笑いのカイブツ』の著者ツチヤタカユキさんは、あの「ケータイ大喜利」のレジェンド、多くのラジオ番組で活躍されたハガキ職人さんです。

 

笑いのカイブツ

笑いのカイブツ

 

 

内容(若干のネタバレを含みます)

 27歳、無職、童貞(?)の伝説のハガキ職人ツチヤタカユキの私小説。高校1年生の時に出会った「ケータイ大喜利」のレジェンドを目指す。1日に500個のネタを作り続ける日々を送り、19歳の時に初めて「ケータイ大喜利」にネタ採用。その後、半年間ネタが不採用となり、1日のノルマを1000個に。ネタが採用されるようになると、ノルマは2000個に増加していく。21歳で、レジェンドに。

 21歳で、吉本の劇場作家になるも、笑いを第一としない他の構成作家に嫌気がさし、人間関係が不和に、そして三ヶ月で退職。その後は、ハガキ職人としてラジオ番組に投稿を始める。「とある番組」で、300のネタが採用されたころ、「あのひと」から誘いにより、24歳で上京する。しかし、ここでも挫折を経験し、地元に帰ることに。。。

 

 

ここでは、私的に面白かったポイントをご紹介します。

徹底した反復練習 現代の木喰上人ツチヤタカユキ

 この物語で、驚嘆すべきことは、ツチヤさんの徹底した反復練習です。彼は、ネタを1日に2000個、漫才のネタであれば20分で作れるほどに鍛錬を重ねていくのです。

 彼は、そのネタ作りにたいして、以下のようにまとめます。

ボケを生産することを、ひたすら繰り返せば、習慣となり、さらに繰り返せば、排泄行為になり、 そこから、さらに繰り返し続けた結果、ついには、呼吸するのと同義にまで、持ってくることができる[139頁]

 このような姿勢は、仏教の修行にも通づるものがあります。宗教学者竹中信常氏によると、最初に修行は意識され、そこには緊張や不安が存在とされます。修行は反復されることにより、平静→沈静→無意識化へと移行してゆくという心理的な過程をたどると述べられています。そもそも、「修行」の 意味に用いられるbhavanaは「繰り返し修する」という意味だそうです。

 むむ、なんだか、とっても似ています。ツチヤさんの行っていることは、もはや修行です。

 

問い続けた神への存在

 挫折を続ける中で、彼は神に問い続けます。

ぶん殴ってあけた、壁の穴。神様の野郎が、その穴から、こっちを見て笑っていた。このままハガキ職人を辞めたら?僕はどうなりますか?今からでも、まともな人間に戻れますか? [110頁]

 彼は、ことあるごとに神と対峙します。しかし、神は答えることなく、ただ、こちらを見て笑っているだけなのです。こうした描写は、遠藤周作『沈黙』を思わせます。神に問えども、神は答えず、ただ沈黙するのみです。努力を続け、それでも報われることのない状況で、それでも努力を続けるのは、神という沈黙し続ける絶対的な他者に問い続けることを伴うものなのでしょう。

 

実際のツチヤさんの様子

 お笑い芸人ヒューマン中村さんと、作家の浜口倫太郎さんがやっているyoutube番組「創談室」に出演された回があったのですが、消されている。。。。不自然に第17回の放送がありません!!出版に合わせて、消されてしまっているのか。それとも、浜口倫太郎さんのツイッターの事件からか?

 わたしの見た感想ですが、きれいな顔立ちの青年で、このような生い立ち、人生を歩んでいるというのが不思議でした。

www.youtube.com

 

 

 この本のオススメ度は、★★★★★(星五つです)!!

 ただ、ラジオ番組に親しみがなかったり、偏屈で自己愛の強い主人公の物語が嫌いな方には向かないかもです。

 

 わたし自身は、《裏番組》の「エレ片のコント太郎」のリスナー歴10年です。Cakesの連載で、その存在を知り、「創談室」を鑑賞、この小説の出版を楽しみに待っていました。彼自身のネタを聞いたことはないと思います。そんな私でも、非常に面白く読めた作品でした。

 

【参考文献】

 

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫)

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫)

 

 

 

 

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